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「ほめること」 と 「甘やかすこと」 の違い ・・・人材育成の誤解

人材育成には、部下やメンバーを「ほめる」「認める」ことが重要です。
このコラムでもこれまで何度か書いてきました。

 

一方で、この「ほめる」「認める」の実践の難しさや誤解を経営の現場から感じることもしばしばです。

 

先日、実際にあった、ある会社での話を例に紹介します。
その会社は経営者が社員に対して常に厳しい態度で臨むことが常態化しており、私から見て、社員の萎縮感(叱られない行動をとる、社内も活気に欠ける雰囲気)や受け身の風土(言われたことはやるが、自ら進んで積極的な行動を行うことが出来ない風土を指してよくお話ししています)が顕著に現れている会社です。

 

何か問題があったり、社内でうまくいかないことがあると、社長は「うちの社員はレベルが低い」「社員や管理者は自分で考えて現状を打開することが出来ない」と嘆きます。

 

今、その会社は、経営の革新的な強化等のためにもとても大事な時期を迎えています。
ここで管理者をはじめとした社員をしっかりとその気にさせて、改革へと動員し、巻き込み、意欲的な行動に向かわせていくことが、とても大事なのですが、今ひとつ、経営者のメンバーに関わる意識や雰囲気作りが着いてこない状況も含めてメンバーの意識や意欲が表に出てこず、手を焼いていました。

 

そこで、私は社長さんと次のような会話をしました。
以下、理解していただきやすいようにあえて会話にして記します。

 

社長:うちの社員はレベルが低いので、先生の言われるような取組みがなかなかできずに困っています。すみません。理解度が低いのです。

 

私 :そんなことはないと思いますよ。そもそも社員のレベルが高い会社ってどんな会社でしょうか? A社(その会社)の社員や管理者の皆さんは決して私はレベルが低いとは思いませんよ。みな、どこの会社も社員の育成やレベルの底上げについてはそれぞれに悩んでいます。それは中小企業のみならず大企業だって同じです。そんな風に社員の皆さんのレベルのことを嘆くのではなくて、もっと社員や管理者の皆さんの力をもっと信じてもらえませんか?例えば、社員や管理者の皆さんの良い行動をもっとほめてあげたり認めてあげてもらえませんか?

 

社長:でも、社員や管理者をそんなに簡単にほめたら、うちの社員は、すぐつけあがり、なめられるのがオチです。そんなに甘やかしていたら、どんどんエスカレートしてダメだと思うのです。だから、厳しく言ってやらないとわからないのです。

 

私 :まず、「ほめること」と「甘やかしたり・おだてること」とは全く異なります。
社長は、社員や管理者の各人の良いところを見つけてみようとしていますか?あるいは知っていますか? 各人の行動を、なんでも区別なくほめることは、甘やかすことになったり、まさにおだてたり甘やかしたりすることになります。大して頑張っていないのに、無理にその行動を「ほめてしまったら」、それは「気を遣っていること=おだてること」と同じになってしまい、確かになめられてしまうことになると思います。

 

社長:やはりそうでしょう? なめられては困ります。甘えてもらっては困るのです。

 

私 :いいえ。そうではないのです。
ほめることが大事だからといって、何でもないことで無理にほめたりすれば、社員は、こんなもので良いのか・・・と思ってしまいます。それどころか、社長や上司である管理者を甘く見ることにもつながります。さらに、もっと怖いのは、言われた社員は「この程度の今のままでいいんだ」と思ってしまい、「それ以上の努力もチャレンジもしなくなる等」社員の成長自体を止めてしまうことになりかねません。人材育成どころか全く逆の弊害を生むことにもなるのです。

 

社長:では、どうすればいいのですか?

 

私 :私は、何でもかんでも「ほめてください」と言っているわけではないのです。
むしろ、何でもかんでもほめるような管理者は、部下を本当に育てることは出来ないと思います。ある時には遠慮や気遣いから 大したことでないことでほめておいて、大事なところで自分の考えを押しつける等、メンバーの意見もろくに聞かずに強引に自分の持っているありきの結論に持っていって部下のマインドを下げているようなケースをよく見かけます。

 

私 :まずは「ほめたり・認めたり」することと「ちやほやしたり」「おだてたり」「甘やかす」ことは、全く違うことを理解してください。
本当の「ほめる」「認める」とは、メンバーの“良いところ”“良い行動”を普段から観察して把握しておくことから始まります。その各人の良いところを見つけたら、(素直に・率直に・・・これが大事です)心から認めてあげることを行ってください。
あるいは、人事制度の評価項目等で求められる能力等に合致する行動が見られるような場合も、その行動が取られたその時に、「良いね」「よくやったね」「おかげで助かったよ」「次は更にこんな風にやってみたら?」といった具合に「ほめたり」「認めたり」してほしのです。
こうした、普段からの「ほめる」「認める」が実践されていけば、社員は徐々にそれの気持ちよさを実感していき、「本当の意味でがんばれる」社員が徐々に育っていくことになるはずです。

 

逆に、こうした、普段からの「ほめる」「認める」が行えていない状態で、いくらうわべの「おだてる」的な声かけだけをおこなっても、うまく機能しない可能性が高いと思ってください。人材育成は、育てる方も育てられる方も相互の変革が必要ですので、時間がかかることもしばしばなのです。経営はスピードですが、この点に関して過度な焦りは禁物です。

 

こんな具合です・・・。

 

どんな社員にも必ずその人ならではの良いところや良い行動があるはずです。それを管理者や経営者は見逃してはいけないと思います。逆に、それを探す努力を怠っていたり、わかっているのに、それが自分より優れている等の理由で「認めたくない・・・」などと思ってしまえば、人材育成はその時点で終わりになってしまいます。

 

お子さんをお持ちの方は、是非、子育てとも重ね合わせて考えていただけるとよろしいかともいます(経営者・管理者-社員。親-子。です)。

 

ありがちで、気づかれないケースが多いのですが、社内でメンバーの話をろくに聞きもせずに、自分の出した結論ありきで社員や部下を怒ったりしかりとばしたり等 している会社では、社員が萎縮し、自信を失い、結果としてチャレンジする風土や雰囲気が社内から失われ・・・結果として、人材が成長する機会自体をみすみす奪ってしまうことになっている・・・ことを改めて確認していただければ、幸いです。

 

さて、皆さんの会社はどうでしょうか?
人材育成の意識の土台はできていますか?